p4c(=philosophy for children)スケッチ

p4c(=philosophy for children こどものための哲学)に取り組む「アトリエ はちみつ堂」の活動を通じて考えたことを記録していきます。

秘密

5年生の男の子と一緒に勉強をしている。いつも勉強を始める前に雑談をしていて、一昨日は友だちと遊んだ話をしていた。彼は時々「それは企業秘密やわ」と言って黙ることがある。その秘密は、昨日遊んだ子の名前だったり、何人かで作った秘密のクラブ活動のクラブ名であったり、友達同士で使っているコードネームだったりする。「それは秘密」という言葉は新鮮に響いた。彼のお母さんから秘密クラブやコードネームの話は聞いているが、そのことを彼は知らない。せっかくの秘密なのだから自分からは言わない方が良い気がして黙っていた。

 
 
 自分は小学生の頃、「秘密」という言葉にこだわる方だった。小学2年生の時、仲の良かった友人が転校することを内緒で教えてくれた。絶対に誰にも話してはいけないと決意した覚えがある。それからしばらくして、ぼくの母親を含む3人で車に乗る機会があった。話してもよいと判断したのか、その子が転校の話に触れた。母親に秘密にするには苦労していたので、これで秘密から解放されると少しほっとしたのだが、意外なことに、母親は転校のことを知っていた。親同士では話が回っていたのかもしれない。また、他の友人たちの話を聞いていると実は話が広まっていたり、友だちには秘密にしていても親だけには話していたということが分かって拍子抜けした。「秘密」の受け止め方が自分だけおかしいのだろうかと不思議な気分になった。少し、腹が立つような感じにも似ていた。
 
中学生になってからは、他人の秘密だけでなく、自分の秘密に対しても厳しくなった。自分だけしか知らないこと、自分だけが考えていることが山ほどあるような気がしていた。自分の気持ちを他人に悟られるのは恥ずかしいと思っていた。今でも、そういうところはある。
 
 
話を戻すと、秘密だと言いながらも、話せる部分については色々と教えてくれた。話が深まってきたタイミングで「そういえば他の子の名前はなんていうんだっけ?」と軽く聞いてみると、あっさりと教えてくれた。

彼と勉強が終わった後、自分が今日勉強したことをお母さんに話したいから帰り道ついてきてほしい、と言われて家まで送っていった。帰り道は日も暮れて暗くなっており、空にはいくつか星が見えた。家につくころには、彼は勉強したことを話すよりも、自分が見つけた星について話すことに一生懸命になっていた。お母さんが出てきても星のことばかりで、教室で勉強した内容をどうやって話すか用意していたのは全部どこかへ行ってしまったようだった。
 
彼を見ていると、秘密にこだわって頑なになることや、事前に決めたことに縛られる窮屈さに気づかされた。もちろん、守らなければならない秘密はあるだろうし、事前に決めた予定には従った方がよい。だが、いつもそうとは限らないだろう。
 
別れ際、お母さんとはまた別の話で盛り上がっているようだった。話題は何か分からなかったが、男の子の声がだんだん遠ざかっていくのを感じながら帰り道を歩いた。何か柔らかいものに触れ、自分の抱える頑なさが和らいだような気がして、気持ちの良い夜だった。