p4c(=philosophy for children)スケッチ

p4c(=philosophy for children こどものための哲学)に取り組む「アトリエ はちみつ堂」の活動を通じて考えたことを記録していきます。

一言に

先週のp4cは6年生の男の子1人と3年生の女の子と大人2人の4人。

 

テーマは「怖い話」から始まった。ぼくは、小学生の時に肝試しをした話をした。もう1人の大人は「川で弟が溺れかけて、弟が死んでしまうのではないかと思って怖かった話」。怖いにもいろいろ種類があるね、と確認しながら、子どもたちに怖い話を聞いてみると、学校の先生の話がたくさん出てきた。

 

怖い、という時は何が怖いのだろうか?普段優しい先生と、怒っている様子のギャップがあるから。ガーッ!と怒るようなところを、静かな声で質問してくるから。自分ではなく、友達が怒られているけど、自分が怒られているところを想像してしまうから・・・などなど。怖いの理由を考えていたけど、少し横道にそれて、どうして先生は怒るんだろうか?と考えてみる。悪いことをしたから・・・だろうか。自分たちは先生ではないし、よく分からない。

 

どういう時にぼくたちは怒るだろう?と考えてみる。約束を破られたとき、大縄跳びの大会に向けてみんなで練習しているのにサボるやつがいる時。みんなで頑張ろうとしているときに友達をからかって遊んでいる人がいる時。そういう時は、どうして怒るんだろう?みんなで力を合わせないといい成果が出せないから。大縄跳びには全員の協力が必要だから。彼らがしていることは、「悪いこと」だから。

 

そういえば、先生が怒るのも、子どもたちが「悪いことを」しているから、という話が出ていた。そして、悪いことさえしなければ、怒られないので、自分たちは大丈夫、という意見もあった。でも、悪いことってなんだろうか?あと、怒る方は、相手が悪いことをしたと思っているから怒っているけど、本人はそう思っていないかもしれない。そういう時もありそうだ。

 

そういう時は、全員で怒る。それか、悪いことをされて傷ついた人の意見を集める。証拠を集める。本人が、悪いことをしたと認めるまで言う。色々ある。でも、それで悪いことをする人はもうやめるだろうか?やめない。いっつも同じ人ばっかり怒られてる。言い訳もいつも同じ。

 

なるほど、それはどうしてだろう?悪いことをしていると、分かっていなくてやっているのかな。証拠を集めて、悪いことをしたと認めさせているわけだから、そうでもなさそうだ。悪いことだと分かっていながら、繰り返しているということになるのだろうか。どうだろう。悪い、というのもよく分からなくなってくる。

 

悪いというのは、ルールを守ること。ルールは破っちゃいけない。ルールを守っていたら怒られない。なるほど、ルールを守ること、か。そういえば、ぼくはたまにルールを破ってしまうんだけど、みんなはどうだろうか。例えば、とても急いでいるときに、誰も見てなかったら赤信号を渡ってしまったりするんだ。 

 

それなら自分もある。学校から帰るとき、校庭を通ったらダメだと先生に言われた。一人の靴の裏にたった5グラムだけでも砂がつく。そのまま外に行くと、校庭の砂が減ってしまう。もし全員が同じことをしたら・・・?という話を先生にされた。結構みんな急いでいるときは校庭を横切ってる。そんなんみんなしてるやん。2つのうち、どっちかを取らないといけないときは、仕方なくもう1つのルールを破ったりすることがある。それは、悪いことをしていると言えるかもしれない。

 

 

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最初の話題からどんどん脱線を重ねながら、だんだん「悪いこと」についての話題が深まっていく。そろそろ、p4cも終わりにさしかかって、「もう終わりだけど最後になにかあるだろうか?」と締めにかかると、3年生の女の子が少し反応したのでボールを渡してみた。「なにかある?せっかくだから言ってみてよ」

 

「悪いとは違うけど・・・なんか邪魔っていう時がある。例えば、学校の廊下は走っちゃダメってことになってる。クラスの子が『歩きおにご(鬼ごっこ)』っていうのをやってて、俺らは歩いてるし、っていってるけど。なんか・・・邪魔っていうか。走ってはないけど。」

 

「邪魔」という実感のこもった言葉のおかげだろうか、パッと学校の風景が浮かぶ。何人か、元気の良さそうな男子が、教室を動き回っている。確かに走ってはいない。「ルール」との付き合いに慣れてきた感じのする、憎たらしい表情で「俺たち走ってないし!」とこちらに向かって得意気に言う。自分が昔、見た光景がフラッシュバックしたのだろうか。あぁ、そういうことがあった気がする。

 

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最初に出た意見である、悪いこと=ルールを破ること、を前提にして、ぼくたちは話していた。最後の最後で、彼女はその前提とは違った例を思いついたのだった。最初、「ルールを守ることが大切」という旨を彼女は意見していた。でも、そうじゃない。ルールさえ守っていればいい、ということではない。「悪いこと」ではない、でも「正しい」とはいえない。「なんか・・・邪魔というか」という表現によって、新しい道がぱっと開ける。

 

残念ながら、時間がきたので、その日のp4cはそこで終わった。

 

 

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ふっと、それまで忘れていたことを思い出す時がある。どうしようもない状況になって、突然、昔先生に言われていた教えを思い出し、あぁ本当に先生が言っていたことは正しかったのだなぁと思う。

 

あるいは、忘れていたことを思い出すように、何かに気付く時がある。悶々と人間関係に悩んでいたのに、「そうか、会いたくない人とは会わなければいいんだ」と、とてもとても簡単な考えが、世界の真理が分かったかのような驚き、喜びと共に思い浮かぶ

 

たいてい、思い出される誰かの言葉、浮かぶ考えはたった一言、短い言葉だ。

 

そういう一言に出会う瞬間を持つ、その瞬間に立ち会う。その瞬間を振り返って、嚙みしめる。